営業マンには熟練が大切だ。あなたもそうだと思うが、お客さんは新人営業マンから買いたいとは、あまり思わない。知識経験が豊富で、信頼できる営業マンから買いたい。質問した内容に適切に、詳しく、親身になって対応してくれる営業マンから買いたいはずだ。
球場でビールを買うのはカワイイお姉ちゃんから買うのが楽しいが、高額な買い物は、ちゃんとした営業マンから買いたいと思うのは当たり前のことだ。この記事を読むあなたには、そういう営業マンになってほしい。
営業は北風でなく太陽
営業の仕事は、会社の商品やサービスを顧客に売ることである。では売るにはどうすれば良いか、というとお客さんから「買いたい」「売ってくれ」と言われる他ない。当たり前のことだが、世の中には悪い営業のイメージが蔓延していて、お客さんに「買わせる」「売りつける」というイメージを持っている人もいる。ゆえに営業マンの人気が低い。
営業の仕事は、童話「北風と太陽」と同じだ。「買え!買ってくれ!」と押してもお客さんはますます警戒して財布の紐を締める。対して、太陽のように「欲しければ売るよ〜」「気に入ったら買ってね〜」という態度でいれば、お客さんは勝手に寄ってきて、質問をし、納得して財布を開いて買っていく。
多くの新人営業マンは「売らなくては」「数字を上げなくては」「実績を増やしたい」という自分本位の姿勢でいるので、北風型の営業になってしまう。イヤイヤ僕は押し売りなんてしないですよ、という人も多いかと思うが、営業マンの側からアポイントを申し込んだり、飛び込み訪問したり、営業メールや電話をすること自体がもう北風的であると認識しているだろうか。もはや、姿をこちらから見せるだけで売り込みになる。
太陽になる=熟練する
では太陽になるにはどうすれば良いのか。僕も若い頃から、これについて研究と試行錯誤を重ねた。なぜなら僕もかつて北風型の営業を繰り返していて、成果が出なかったからだ。一生懸命に日参しすぎて、出入り禁止された客先もあった。
そこでたどり着いた答えは「熟練」だった。商品・サービスについて、お客さんについて熟練すること。熟練することにより、視野が広くなる。具体的にはこれらのスキルが身につく。
- トラブりそうなポイントをケアできる
- 他のお客さんの事例を話せる
- 人気の理由を論理的に説明できる
- 安請け合いしなくなる
これらは同じ仕事(営業:商品・サービスを売る)に数年単位で従事して、実務経験を高めていくことでしか獲得できない。ベテラン営業マンが売れるのはこのためだ。熟練営業マンはトークが優れている、とよく言われるが、その中身は実はこれである。実務に精通し、ケーススタディが豊富だから、お客さんを安心させることができる。「ああ、この営業マンは詳しいから任せても大丈夫だな」とお客さんが感じた時に、初めて「売って欲しい」「買いたい」と思わせることができるのだ。
これは一朝一夕で身につくものではないし、そもそも身につかない業界もある。ゆえに、熟練が効く商品・業界を選択することが重要なポイントになる。さらに先の話になるが、その熟練に時間と苦労がかかるものほど、それが参入障壁となり後輩からの追撃を防げて社内の地位が不動のものになる。
熟練が効く業界
では熟練が効く業界について考察する。僕が思う熟練が効く条件は下記2点だ。
- 昔から存在し、成熟している業界
- 技術革新が遅い業界
昔から、といっても何百年とかは必要ない。現代においては、30年続いていれば十分に昔だ。30年続いているといっても、もう風前の灯になっていては意味がないのだが、現状でも十分やっていけている業界ならば、成熟していると考えられる。その中でも、50年、100年、あるいはもっと昔から存在しているような業種は確度が高い。
この2つの条件を満たす業界は、僕の知識経験の範疇では
- 化学メーカー(素材)
- 不動産業(賃貸のオーナー)
この二つがツートップだ。不動産業は大昔からあるし、化学メーカーの特に素材は高度経済成長期から続いている、成熟業界だ。そして仕組みが大きく変わっていない。革新的な企業がない。大昔からあって、技術革新が遅いということは、仕事のやり方が大きく変わっていないということだ。10年前のノウハウがそのまま使えるし、今後もずっと使えることだろう。
ただし不動産業(賃貸のオーナー)は簡単には入社できない点が唯一にして最大のネック。ゆえにこのページを読むあなたには、化学メーカーが最善の選択肢となる。
後輩の追撃をかわす障壁
あなたは現状では若手営業マンかもしれない。だが、年月が経てば若い後輩が続々と入社してくる。そして、後輩に追い抜かれてしまったら、あなたは後輩の部下になってしまうかもしれないし、営業部から外されてしまうかもしれない。それはとても屈辱的だし、慣れ親しんだ営業という仕事から、一日中オフィスでPCと向かい合うような仕事へ異動したくないだろう。特にラクな営業職はなおさらである。
だが実際にはそのような事例は世の中に数多く存在する。それは、若くてガッツのある営業マンの方が成果が出せるタイプの営業だからだ。新陳代謝が激しい業界とも言える。つまり、熟練の度合いが浅くても成果が上げられて、営業マンが時間を投入して頑張れば頑張るほど成果が上がるようなタイプの仕事である。
熟練の度合いが浅いとは、割とすぐに熟練が終わってしまうタイプの仕事である。半年も勉強して経験すれば、だいたいマスターできるようなタイプの商材だと、底が浅いので新たな参入者も熟練がしやすい。
具体的には、金融関連の営業マンや、コモディティ品のメーカー営業だ。こういう営業職は、要求される知識経験が浅くても良い。反論はあるだろうが、若手が大型案件をキメることができて、新人が割とすぐに業務を覚えられるような営業職は、熟練が浅くて済むという証明でもある。
逆に、新人だと全然売れない、熟練営業マンじゃないと回らない、という性質を持つ営業職であれば、40代になった時に後輩からの追撃をものともしないだろう。一日の長の経験が活きるような営業職である。その知識経験が財産になって、その財産でもって後輩を圧倒できるような営業マンにならなくては、いつまでも消耗戦をする羽目になってしまう。
きつくて大変な業界
逆にきつくて大変な業界の例を考えてみよう。革新が起きてしまった業界の例だ。
例えば、繊維業界はユニクロという革新的企業の出現で、製造、流通、販売などのシステムが一変してしまった。特に流通を担っていた「卸売業」が壊滅した。ゆえにユニクロの一人勝ち時代があった。自動車業界も、ガソリン車からハイブリッド車、そして電気自動車へと技術革新がめざましい。この革新についていかなくては生き残れない。
そう、こういういわゆる「忙しい業界」はやるべきではない。こういう業界はあってもいいし、もちろんなくては困るものだ。だが、このページを見るあなたにはやってほしくない。あえてやるやる必要がない。そんなに大変で苦しい、火中の栗を拾いに行くようなことは、敢えてする必要はない。そんなことをしなくても、十分に稼げるのが化学メーカーだ。
化学メーカーにおいては、革新的なことはあまり起きていない。そりゃ全くないわけではないが、多少効率が良くなったとか、多少安く作れるようになったとか、そんなものである。設備が巨大なので、新規参入が難しいのでベンチャー企業もなく、業界を揺るがすほどの革新は起きていない。ゆえに、営業マン個人としてはとてもやりやすい。長く使える知識経験が、まさに財産になる。その財産は、化学業界においては価値が毀損しにくい。時間の経過で目減りしない。化学反応は刷新されることはほとんどないからだ。
続き:出世する流れを作る
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