儲かっている化学メーカーに、 若くして営業職として入社することができたなら、 ゆるふわな仕事と悪くない給与を得ることができる。 もはや高齢化が急激に進む化学業界においては、 若いというだけで希少な存在であることは間違いない。しかし、 いつかはあなたも歳を取り、また後輩が入社してくるだろう。 その時に、 万が一にも営業からハズされないための用意をして磐石の態勢を作 り上げておこう。
僕の身近で、この事例は実際に起きた。実話である。何しろ「 若い後輩」は僕だったからだ。僕が力をつけていった結果、 とある40代後半の先輩から結果的に仕事を奪ってしまい、 彼を閑職へ異動させることになってしまった。
ハズされないための砦
若い後輩が入ってきて、 あなたの仕事が簡単に代替可能であるならば、人件費が安く、 元気な後輩に引き継ぐことになってしまうだろう。 これは自分が望む・望まないに関わらず、 営業のボスから指示が下りてきてしまうものだ。 組織としては新陳代謝は致し方ないことでもある。
「簡単に代替可能」とは知識レベルや顧客規模、 日々かかってくる手間などが総合的に判断される。要するに「 この商品・客先は、新人でも問題なかろう。 大したクレームもないし、最悪、失っても問題ない」 というような商品・客先である。 こういうものだけを担当していると、 若い交代要員が入ってきたときに危なくなる。
内勤の閑職であっても高齢化が進んでおり、 そこの補充要因も日々必要だ。特徴のない営業担当はもはや進歩なしとして、 可能性が残っている新人に回して育成とするのは理に適った采配で あろう。この閑職に回されてしまっても、 サラリーマンをしていくのならば問題はない。「お出かけ」 ができないストレスが溜まりやすくなるくらいだ。しかし雇われ人からの脱出を目指すならば、日中に外出し、 自分の事業に時間をぶっ込みまくれる営業職の座は簡単には譲れな い。内勤とは時間効率が違いすぎるからだ。 その生き残りのためには「新規開拓」 が必須だと本サイトでは繰り返し述べているが、 そこにブラックボックスを作るというエッセンスを加えれば、 さらに磐石な砦とすることができるのだ。
誰よりも詳しくなる-集中と特化-
その強固な砦を築くためには「誰よりも詳しくなれ」 というのが基本スタンスである。「誰よりも」というのは、 営業部内でということだ。さすがに文系の営業マンでは、 技術部や研究職に及ぶことはできない。しかし、文系だらけ、 勉強しないオジサンだらけの営業部において誰よりも詳しくなるこ とは十分に可能だ。
とはいえ、オジサン達も数十年、 営業をしているベテランではあるから、 そんなに簡単に抜きん出ることもできない。 このように積み重ねが効くから、化学業界は良いのであるが、 チャレンジする立場にとっては障壁となる。そのため「 集中と特化」を行うことでこれを打破するのである。
マイナー品・特殊品
集中と特化に際しては、何をターゲットとするかが重要だ。 勤務先の花形の商品や業界に特化しようとしても、 それは非常に効率が悪い。 既にエース社員がそこを特化し尽くしているからである。 またその座を虎視眈々と狙う者もあり、競争も熾烈だ。 そういういわゆるレッドオーシャン、 過当競争の領域に勝負を求めるのは、 メタ的な視点で消耗が約束されてしまう。
そこで、今一度メタ的な視点に立ち返り、 自社の製品群や顧客の業界に着目しよう。花形ではないけれど、 細く長く売れ続けている商品はないだろうか。もしくは、 大昔には主力だったが、今ではもう衰退して、 しかし廃番するほどではないという商品。花形製品のオマケ的に、 傍流として作っている製品などだ。こういう、 地味だけど辞められない商品というものが化学メーカーにはある。 こういう商品は、爆発的に売れたり、 利益が取れるものではないのだが、顧客の強い要請により「 辞められない」という背景を持っていたりする。メーカーには「 供給責任」というものが業界の風習としてあり、 自社の都合だけで「やーめた!」 とは簡単にできないものなのである。 もしやむなく辞める場合でも、数年単位で前から告知して、 徐々に撤退していくことがほとんどだ。 工場の事故やマシンの故障などならば仕方ないが、 基本的には簡単に辞められないのが化学メーカーなのだ。 そこを突く。
しかし、もう既に「3年後に事業撤退する」 とかそういうアナウンスがなされていたら無駄になるから、 そこは気をつけてほしい。
他人がやっていない業界に特化
新規開拓をするにしても、業界選びが非常に重要だ。 既に多くの売上があり、 花形となっている顧客や業界があるだろう。ここは、 営業マンなら誰もがすぐに思いつき、攻勢をかける。 こういう目立つ業界は営業マンの中で競争になり、 熾烈なイス取りゲームが始まる。 そういう戦場には参戦せず独自路線を進んだほうが、 ブラックボックスを作れる。これは後々、有効となる。 なぜなら誰もやっていないし、知識もないから「 彼に任せるしかない、彼はハズせない」となるからだ。 イスを守れる。一般の営業マンは「 今売れている業界に参戦しよう」が普通だから、 似たような知識経験しか身に付かず、コモディティ化してしまう。 こうなると代替が容易になる。代わりがいくらでもいるからだ。
ただし、このことを理解しない上司も数多くいる。そのため、 パフォーマンスのために本命とせずとも「花形業界」にも多少、 手を出しておく。繰り返すがあくまでもパフォーマンスである。 彼ら(上司)は、すぐに見える数字に反応しやすい。 既に儲かっている業界とか、 数量が見込めるものがないと不安なのだ。
やはり新規が最高
ここまで読んだあなたには「 誰も手を出していないフロンティアで、 次の商売の火種を見つけたほうがいいんだな」 という考えがインストールされたはずだ。 誰もが着目していない業界、少しだけ売れている業界。そういう「 火種」を見つけよう。どうやって見つけるのか?当然、 会社によって商品は異なるから、 具体的な業界を教えることはできない。 だがその根幹は教えられる。
その根幹とは火種を見つけようと『思う』ことである。精神論・ 気持ちかよと思うかもしれないが、 新規の火種を探すアンテナを作動させるのはこの「気持ち」 しかない。逆に言えば、気持ちさえあればアンテナが作動し、 様々なきっかけに反応して火種を見つけ出すことができるようにな る。 アンテナが作動していない営業マンが見逃して通り過ぎるところに 、気が付くようになる。ここが奥義だ。
僕は若かりし頃、 新規開拓のやり方がわからずマーケティングの本を読んだり、 BtoBビジネスについて学んだり、 市場動向の高い本や業界地図を読んでみた。しかし、 そこからは明確な答えは見つからなかった。結局は「気持ち」 に起因する「アンテナ」が大事だった。
本記事の前半では、 既存の商品や顧客をベースに防御の砦を築く方法を説明した。 しかし、攻撃は最大の防御とも言われるとおり、 攻めつまり新規開拓が最強の防壁となる。 誰も売ってきたことがない業界、新しい商品の開発、 伴って自分に蓄積される知識経験。 これらは社内でオンリーワンの営業マンになるには欠かせない要素 だ。もちろん、経営者の立場からしたら、 非常に属人的であるこの体制は好ましくはない。 だから後輩に教えてあげてとか言ってくるが、そこは面従腹背だ。 秘伝のタレは、秘伝のままにしておこう。 レシピは教えてはいけない。これがブラックボックスである。
真の優秀な営業マンとは、誰も靴を履いていない国で、 最初に靴を売ることを目指す。これこそが大きな利益と、 莫大なマーケットを捕まえるコツだ。先行者になることは、 莫大な利益をもたらしながら、 鉄壁のブラックボックスを作ることができる。 実績と実務を兼ね備えれば、営業マンのイスは揺るがない。 そうして確実な足場を確定させたら、 自分の事業に時間を投下していこう。