ここ数ヶ月、転職活動そのものに対するお問い合わせを複数件頂いた。
僕は自分の運営している本ブログや電子書籍、聖帝サウザー師匠の白熱教室にて「儲かっている化学メーカーの営業職」への転職を推奨してきた。
化学メーカーを奨める理由
なぜ化学業界とメーカーを推すのか、というと、
- 参入障壁が高い業界であること
- 継続的リピートオーダー性質の商材であること
- ヒトが頑張る系の労働集約的ビジネスモデルではないこと
などが挙げられる。
これらの性質から「儲かりやすい」という特性があり、それを裏付ける資料として拙書『キツい営業ラクな営業』にて、国税庁と経産省の統計を用い、法人税の納付金額を法人数で割り、その平均値を分析した。
この時用いたのは当時の最新版であった平成29年度(2017年度)のデータである。
まず法人税は、黒字でなければ納めることはできない。
また、売り上げや利益を法人の数で割れば、1社あたりの「取り分」が見えてくる。
これは平均値であり、業界の上部と下部では異なるという見方もできるが、その業界が持つポテンシャルと見ていいだろう。
僕は、個々の企業のケースを考えるよりも業界としての性質を重視したかった。
というのも、僕がかつて所属していた建築関連の業界は、確かに売上額は巨大だが、所属する法人数と従事者の数が多く、金額をアタマ数で割ると非常に少ないことがわかったからだ。
いわゆる賃金不足の状態だ。
人数が多い業界は、それだけで一人当たりの取り分が減る。当たり前のことだが、意外と全体の絶対値ばかりに目がいってしまう。
そのことを僕は先述の自著でデータとともに示し、また化学業界の実態(ゆるふわになりやすい)をお伝えした。
そこには、数字的なものだけではなく、先人たちが長い年月をかけて醸成させてきたゆるふわの土壌・文化がある。
新興の業界にはありえないユルさであり、一種のガラパゴス状態なのだ。
そしてそんな生ぬるい環境が許されているのは、ただひたすらに
「儲かっている」
「参入障壁が高い」
からであった。
これらがなければ、とっくのとうに淘汰されていたような働き方であるが、先述の強力な防護壁に守られて、化学業界はゆるふわガラパゴスを続けてきた。
…というのが、2019年までの話であった。
コロナで流れが変わる
僕が聖帝サウザー師匠と白熱教室『意識低い系転職のススメ』を収録したのは2019年、秋。
当時はコロナのコの字もなく、むしろ好景気気味で、大学生は売り手市場、転職市場も活況と、この『意識低い系転職』など要らなかったのではないかと思われるような社会情勢だった。アベノミクスは成果があったのだったと、今になって思う。
僕は収録が終わった後にこの白熱教室に込めた「ブラックから逃げろ!」というメッセージは、もうこのアベノミクス好景気の環境下においては役に立たないのかもしれないな、と寂しい気持ちになった。
しかし白熱教室がリリースされた2019年12月の末頃から、武漢にて新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、そこからの不景気は一気であった。そのことは、皆さんもご存知の通りだ。
さて前置きが長くなったが、言いたかったのは
「コロナ禍を通じて、化学業界はどうなっちゃったのか?」
ということだ。
この疑問に対しての統計データが国税庁および経産省から発表されるのは、2年がかかる。
コロナショックの影響が現れたデータが公開されるのは2022年の夏頃の見込みだ。
それが発表された時にはあらためて統計を取り直し、分析を行いたいのだが、それには今しばらく時間がかかる。
ここからは僕の体感の話であるが、化学業界はコロナによって受けたダメージは比較的少ない、と考えられる。
供給業界の分散によるリスクヘッジ
化学業界は、いわゆる「原料」を様々なメーカー各社に供給している。
そのメーカー各社とは、多くの業界に分散している。
自動車、建築、紙、包装、インク、自動車関連、電材関連、化粧品などなど、多くの業界にまたがる。
なお、化学メーカーに属していても、どこかの業界に依存して、そこに一本足打法でやっているところは危ないから注意してほしい。
例えば自動車向けに特化し過ぎていると、何かの原因で自動車が売れなくなったり、自動車の製造ラインが止まると、一気に売り上げゼロになる。今回のコロナ禍でもそれが起こった。
そうではなく、幅広い業界に幅広く販売しているような特性の商材が好ましい。
できれば、川上の材料を作っているところがいい。
原料の加工を川と見立てたときに、上流に行けば行くほど強くなれる。
川下に近づくほど、その用途は限定的になり、特化が進んでいく。
特化が進みすぎると、分散ができなくなる。
さまざまな分野へ分化できるような素材のメーカーがいい。
今回のコロナ禍では、大きくイベント系と自動車系、それと建築系がダメージを受けたと感じている。
イベント系とは、意外にも紙を使う。ポスターやチラシ、パンフレットの類だ。
この材料である紙そのものはもちろん、それをコーティングする材料、色をつけるインクなどの材料も、需要が激減した。
コーティング剤やインクも、さらに分解していけば、ベースのビヒクル(樹脂)や顔料(色を出す粉や染料)や、表面張力を操作する添加剤など多くのものが使われている。
自動車関連も、各種パーツは当然として、それを作る過程で消費されるタイプの工程間の材料などの消費も冷え込んだ。建築は、現場がストップせざるをえず、施工が進まずに消費が鈍った。新規の着工件数も減った。
これらのことからわかるのは、例えば最終製品が自動車に使われているパーツがあったとして、それに頼り切ってしまうような会社では危険だということだ。
印刷も、化粧品も、構造としては同じだ。
これを回避していくには、やはり多くの業界に材料供給していて、リスクヘッジが自然とできている上流から中流の化学メーカーがオススメだ。
化学メーカー求人の探し方
さて、そんな化学メーカーはどうやって探せば良いのだろうか。
僕はこれまで
「リクルートエージェントに登録して、儲かっている化学メーカーの営業職を紹介してくださいと言ってください」
と推奨してきた。
ただ、なかなか良い案件は常日頃からあるわけではないので、そこは気長に待ってみてほしい、ともお伝えした。
しかし、実際にどれくらいかかるのか、どんな流れなのか、よくわからないと不安だと思う。
そこで一例として僕の事例を示しておこうと思う。
僕の転職体験記
僕はとある年の1月中旬に、新卒で入った会社に絶望しきって、決意を固め、転職活動を始めた。
転職に関する本を読んだり、ネットで情報収集を始めた。
そして2月の初旬にリクルートエージェントに登録して、1週間ほどでエージェントと面談。
それから2週間かけて、履歴書・職務経歴書を完成させて、ようやく戦える状態になったのが2月末であった。
その頃はエージェントも、あちら側の都合なのか、激務高級系の金融系とか、前職と属性が似ている建築系を推してきていた。日々、エージェントから求人情報メールが送られてきていた。
3月になったらリクルートエージェント以外の転職エージェント会社を3社回って、面談した。
そこで、いろいろわかった。
エージェント会社も玉石混交で、自分らの都合ゴリ押ししてくる人がいたり、化学メーカーの案件をそもそも持っていないとか(特定の職種に特化していたり)がわかった。
比較していく中でわかったのは、やはり案件数と実績においてリクルートエージェントの右に出る会社はないということだった。
ベンチャーとか、金融とか、ハイクラス求人とかならいざ知らず、20代中盤の化学メーカーの営業職志望、ということを考えると、やはりリクルートエージェント一択であろう。
後述するが、僕の勤務先も
「とりあえずリクルートエージェントだけに求人出した」
とのことだったので、化学メーカーという目標を考えれば、やはりリクルートエージェントが最適解だろう。
3月の間はリクルートエージェント以外のエージェントと面談したりしていて、リクルートエージェントとの案件が全然進捗していなかったことがメールの履歴から読み取れた。
また、その頃はブラック企業での最後の大仕事で忙しかった頃でもあったから、転職活動は控え目になっていた。
そんな僕の状況に痺れを切らしたエージェントから第2回目の面談の打診があり、4月上旬に2回目の面談。
そこで
「もう金融とか建築はやりたくないんで、メーカー系、できれば化学系がいいです。友達から化学業界は良いと聞いていて…」
というような面談をした。
この希望を聞き入れてくれたエージェントは、それからはメーカー系の求人を多く送ってきてくれていた。
なおこのような打診は他社エージェントにも行ったのだが
「いやいや!ヤコバシさんのような方には金融系が良いと思いますよ!」
とか、こちらを曲げようとしてくるエージェントもいた。
正直、腹立たしかった。
こっちがもう激務系はヤダと言っているのに、それでも激務系を推してくるのは、今になって思えば、彼らに「案件」がなかったからなのかもしれない。
彼等も、持っている求人で勝負していくしかないのだから。
先述の通り、化学メーカーは「とりあえずリクルートエージェントに出しておけばいいだろ」くらいの姿勢なので、リクルート以外のエージェント会社にそもそも案件として降りてきていない可能性が高い。
リクルート以外のエージェントは、持っているタマの中で、決まりそうな案件を必死に勧めるしかなかったのであろう。
そういう意味では、リクルートエージェントの担当者には余裕があった。
正直、あまり愛想のない担当者ではあった。
しかし僕の
「メーカー系、できれば化学」
という要望を聞いて
「ふむ…ではこんな案件はどうでしょうか?」
と新たな案件をいくつか紹介してくれた。
また、その翌日から日々送られてくる求人の情報メールには機械系や部品系、農薬系などの案件がメインになってきていた。
僕の希望をちゃんと聞き入れてくれたのだ(ここが意外にも大事)。
そしてそんな求人に、僕もいくつか応募していた形跡があった。
履歴書でのお祈り、多発
履歴を見ると、機械や化学メーカーに4社ほど、応募していた。
しかし書類の時点でお祈りされていた。
理由は
「もっと条件に合った志望者がいたため」
ばかりだった。
そのころは結構、絶望していた記憶がある。
「なんだよ結局、僕には建築系の属性がついてしまっていて、優先度が低いじゃないか…結局、建築系しかお呼びでないんじゃないか?」
と絶望していた。
そんな中、特殊プラスチックの成型メーカーの書類選考に通っていた。
しかし当時流行っていた半沢直樹の実家のネジ工場みたいな製品を作っていたから、半沢直樹の影響もあって、大丈夫かよ〜と心配になっていたと記憶している。
あと確か年収もあまり変わらなくて、やっぱり機械系は儲からないのか?とか不安になっていた記憶もある。
結局この会社は選考を進まない、と辞退した。
求人はある日突然、出現する
そんな中、4月末に現職の化学メーカーが求人を出してきた。
それはエージェントから送られてくる毎日の「新着求人お知らせメール」でキャッチした情報であった。
謳い文句は
「ルート営業!ノルマなし!毎日定時で帰れる!」
という内容で、非常に意識が低くて「これだ!」と感じた。
しかも詳細を確認してびっくり、年収の水準が400万円を超えていたのだ。
それまで見てきた会社の多くは、20代中盤だと360万前後が多かった。これは農薬メーカーや機械系のメーカーだったが、世間的に見ても平均的な年収だと思う。
僕の最初の勤務先は約320万円だったから、どちらにしても年収アップにはなる。
それでも400万円という数字にも惹きつけられた。
即、エージェントにメールした。
「是非この会社の選考を受けたい」
面接の日程のセッティングが始まった。
5月初旬にすぐに日程が組まれて、1次面接。その日のうちに通過の連絡があり、2次面接の日程が組まれた。
2次面接は5月後半で、この時
「君がその気なら、内定を出す」
と言われ、これを承諾、内定となった。
入社は7月からを希望されたので、僕は6月中に現職を退職しなくてはならなくなった。
色々あったが、無事に退職完了し、7月から入社した。
という流れだった。
少しまとめると、最初の2ヶ月は全然進捗なく、むしろエージェント側の都合で翻弄された。
エージェントも数社、比較で面談してみたけれど、結局はあちらに「案件」がないと紹介のしようがないし、また我田引水なエージェントに当たると、あちらが儲かる案件(高給激務系)を推してくることなどがあった。
そして入社後に人事部長と色々話してわかったことがあった。
- リクルートにしか求人を出していなかった
- 営業職の求人を出したのは10年ぶり
あの時、もしリクルートエージェントに「化学メーカーがいい」と直談判していなかったら、求人のお知らせメールの属性は変わらなかっただろう。
そしてタイムリーに、10年に一度のタイミングに出会えた。
そしてその情報は志望者多数で数日で締め切られて、僕が採用されたことで案件は消滅した。
つまり転職市場に出現していたのはわずか数日間だったということになる。
これは完全に「縁」だが…人や会社との出会いなんて、そんなものだろう。
このことを通して、転職活動に取り組んでいる人に伝えたいことは3つ。
- リクルートエージェントにちゃんと化学メーカー志望だと伝える(希望が聞き入れられているか要確認)
- 毎日、求人情報メールをチェックする
- 会社との出会いは「縁」と割り切り、チャンスを待つ
特に初手でリクルートエージェントに打診することは、僕の経験からも最重要であるとお伝えしたい。
何度も言うが、募集を出す化学メーカー側がリクルートくらいしか知らないので、ビズリーチやら、新興のエージェント会社に求人をそもそも出さないことが大きい。
業界ナンバーワン求人数という謳い文句は伊達ではない。
繰り返すが、エージェントだって「玉」がなければ紹介のしようがないのだ。
またあなたの現職にもよるが、エージェントは基本的に決まりやすそうな案件を持ってくる。
それは、現職と同じ属性の方が決まりやすいからである。当たり前のことだ。
しかし、多くの場合、その業界自体に限界を感じて転職するのであるから、異業界へのスライドをしたい。
しかし残念ながらそこには多少の壁があり、先述の通り僕も4社ほど履歴書で「他に条件に合致した志望者が〜」とお祈りをされている。
ここで折れずにチャンスを待つ粘り強さだけは必要だ。
リクルートエージェントに登録して、エージェントに「化学メーカーを紹介してほしい」としっかり伝えること。これがまず川に網をピンと張ることにあたる。
そして待つ。
魚はその網に触れるかもしれないが、魚がやってくるかどうかは、待つしかない。これは縁であり、運である。
そして魚が来た時には、全力で獲りにいく。
逆に言えば、上記の動きをちゃんとやってないと化学メーカーへの転職の道は開かない。
そう考えると、実はルートが限定的なので、しっかり対策してほしく思う。
本当に回し者感満載で申し訳ないのだが、本当にリクルートエージェントしかルートがないので、まずはここからだ。
次回はなぜ面接に通ったかを、後日談として幹部から聞けたので、その話もしていく。