新しい業界に馴染む

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知識習得

金融、建築、サービスなどなど…他業界から化学業界へ転職すると、時間の流れや商習慣の違いに戸惑うことがあるかと思う。結論からいうと、皆さんがイメージする日本企業そのものが、業界ごと生き残っている生きた化石。それが化学業界だ。

50年以上の歴史

化学業界は、第二次世界大戦後の高度成長期に発展した産業だ。つまり、その頃から石油コンビナートという巨大設備が日本にはあったのだ。そして、それは修復を続けながら、現役で稼働している。一部そろそろ、リアル老朽化で破棄される設備も出てきたものの、大部分はいまだに現役だ。

伴って、これらの石油化学系の企業もまた、長い歴史を持っている。戦前に創業していた会社も多く、100年クラスの会社がゴロゴロいるのが化学業界でもある。多くの企業が20年ほどで寿命を迎えるといわれる中、この数字は驚異的だ。そして、こうして生き残っているのにはもちろん理由がある。

プロダクトライフが長い

前項で述べた、会社20年寿命説は、後継者不足などもあるが、僕は製品の寿命と関係していると見ている。プロダクトライフサイクルという考え方がある。商品は生まれて、成長し、最盛期を迎えて、衰退し、最後には消える。まるで生き物の一生のように、商品にも寿命がある。それは、人々の趣味嗜好の変化かもしれないし、上位互換となる商品の出現かもしれない。二つ折りの携帯電話がスマホに駆逐されてしまったことは記憶に新しい。

さて、化学業界の製品とは、素材や原料、材料といった類のものが多い。それを材料にして、パソコンや自動車を作るのだ。用途も多岐にわたるから、何かが廃れても、他で使われる可能性も高い。化学業界の商品はライフサイクルがとても長い。これは他業界にはない特徴だ。たとえば同じ製造業でも、自動車は常に進化し続けている。10年も経てばかなり昔の車、という能力とデザインになる。化学にはこういうことがない。

川上なので強い

化学メーカーが原料を製造し供給しなければ、ほとんどのメーカーはストップする。例えば、石油から樹脂を精製し繊維にする。その繊維を織って、加工して接着剤で貼り付けないと、自動車の内装は完成しない。今のプロセスだけでも、樹脂を繊維にする会社、繊維を織る会社、加工する会社、組み立てる会社(自動車メーカー)という4社が川下の位置にいる。

これらの会社は原料メーカーが供給をストップしたら仕事ができない。化学メーカーは、これらの会社がお客様だとわかっていても、自分たちの圧倒的アドバンテージも知っているから、基本的には強気だ。「製造が追いつかないので、値上げします」というのがまかり通っていることが何よりの証拠だ。「頑張って増産しろよ!」というのが客の立場の意見であるが、化学メーカーは自分のアドバンテージを知っているから「僕らにできるのはここまでです」というのを基本的に譲らない。

そして驚くことに、業界全体がそういう雰囲気なので、抜け駆けしてサービスをする会社が出ないのだ。サービスをしないということは、すなわち社員にも無理をさせないということ。つまりブラックにはならないということだ。

強烈な競争が蔓延している業界では、少しでも自社のシェアを広げるために、受注を増やすために、社員が無理をする。営業マンが遅くまで客先回りをしたり、現場作業員が休憩せずに作業するといった無茶な頑張り方だ。これがブラックの正体ともいえる。無茶をしなくてはいけない商売がこの世にはある。化学業界はこれと真逆だと思っていい。

儲かっているからこそ

先述のような理由で、化学業界は儲かる仕組みと、無茶をしなくてもいい土壌がある。この土壌ゆえに、化学メーカー社員たちは基本的に無理をしない。できないことはできない。できそうでも、めんどくさそうだからできないと言っちゃえ、みたいな雰囲気すらある。なぜなら儲かっているからだ。特に、新卒で化学業界が初めての職場の場合は気がつかないが、これは相当にゆるい。

だが、そのゆるさは、とてつもなく高い参入障壁によって守られている。巨大な生産設備のことだ。これを今から新たに建造するとなったら何千億もの投資と、それに携わる人員を確保しなくてはならない。ノウハウも必要だし、危険物を扱うとなれば行政の検査もある。これはとんでもなく高い参入障壁だ。新規の起業が最も起きにくい業界と言えるだろう。

こういうことも手伝って、化学業界は高い壁に守られて、ガラパゴス化している。だから、いまだにFAXが現役だし、30年前のPCソフトウェアが現役だ。競争が激しい業界だったら、こんなにのんびりしていられないだろうと僕は思う。

ただ、こういう業界なのだと知っておけば、戸惑うことも減ると思う。高い壁に守られたガラパゴスなんだ、と知っておけば、独自の進化を遂げたおじさんたちについても理解をしようと歩み寄れるのではないだろうか。

商社は例外

最後に、化学業界の商社について注意を。商社の場合は、上記の特性が全くあてはまらない。なぜなら、商社はメーカーから仕入れて、売るというのが仕事だからだ。商社にコントロールできる部分は少ない。それなのに、末端の顧客は商社に文句を言うし、値下げ要請もする。

業界トップの商社(長瀬産業など)は別格として、中小の化学商社は今後は淘汰されて統合していくと予想される。そもそも高齢化が進みまくっているのが化学商社だから、人員不足で廃業する例も増えてくると思われる。

僕の取引先も、こう語っていた。「小さな商社は大手の品物も引っ張れないし、代理店挟むから高くなるし、勝てる要素がほとんどないよ。しいていえばサービスだけだけど、値段の前にはそんなものは意味をなさないよ」と。化学商社にはうまみが少ないので入社しないようにしよう。

あくまで狙いは、化学のメーカーだ。

続き:基礎固めをする

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